卵子凍結の最適な年齢

現代社会では女性の生き方が多様化し、キャリア形成と出産のタイミングをどう組み合わせるかは、個々のライフプランに大きく影響します。そのような中で、未来の妊娠・出産の選択肢を広げる方法として注目されているのが「卵子凍結」です。しかし、卵子凍結について具体的に理解している人は、まだ少ないかもしれません。

この記事では、卵子凍結の理解を深め、より良い選択をできるように、出産確率や卵子凍結の最適な時期、想定されるリスクについて詳しく解説します。

ライフスタイルや将来の計画に合わせた、より良い選択をするための情報を知りたい方は、ぜひご一読ください。

卵子凍結 何歳までに卵子凍結すればいいの?
もくじ

卵子凍結とは

卵子凍結は、加齢や病気などのさまざまな要因により生殖能力が低下する前に、将来の妊娠に備えて自身の卵子を凍結する医療技術です。

精子とは異なり、卵子は新たに体内で作られません。一生分の卵子は、生まれたときから卵巣内に蓄えられています。そのため、年齢とともに卵子の質・量は低下し、妊娠率が下がります。

将来出産を希望していても、さまざまな事情により、若いうちに妊娠できるとは限りません。妊娠を望む女性が、少しでも確率を高められる手段として、卵子凍結が用いられるようになりました。

卵子凍結を検討する理由は、大きく2つに分類されます。

  • 病気や治療を受ける前に行う卵子凍結(医学的適応)
  • 年齢による妊娠率低下への対策としての卵子凍結(社会的適応)

女性の社会参加が増えるにつれ、キャリアやライフプランの選択肢も広がりました。卵子凍結は、医学的な理由で妊娠が困難になる場合だけでなく、多様化するキャリアやライフプランにより、あとから妊娠を希望する場合でも自身の健康な卵子を利用できる方法です。

【参考】ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ−日本産科婦人科学会

出産確率について

自然妊娠における、妊娠・出産確率は年齢とともに低下する傾向です。

30歳を過ぎると徐々に減少し、35歳を超えるとこの傾向が顕著になり、40歳を超えると急速に減少します

卵子凍結をしない自然妊娠の場合と、卵子凍結をする場合の妊娠・出産確率についてそれぞれ解説します。

卵子凍結をしない場合(自然妊娠の場合)

妊娠・出産の確率が年齢と共に低下する傾向は、避妊法が確立されていない17〜20世紀の「女性の年齢と出産数の変化について調べた研究」により明らかになりました。出産数は、30歳を過ぎると徐々に減少し、35歳を超えるとこの傾向が顕著になり、40歳を超えると急速に減少します。

100組のカップルが1年間避妊せずに性生活を送った場合の、女性の年齢ごとの妊娠確率は、以下の通りです。

年齢妊娠確率
20歳〜24歳100%
25歳〜29歳94%
30歳〜34歳86%
35歳〜39歳70%
40歳〜44歳36%
45歳〜49歳5%
(M. Sara Rosenthal : The Fertility Sourcebook, Third Edition 、McGraw-H Ⅲ 、p.5 、2002を元に作成)

【参考】妊娠確率図提示前後の出産に関する意向変化−帝塚山大学現代生活学部子育て支援センター紀要 第3号 P91(2018)

卵子凍結をする場合

凍結した卵子の個数と女性の年齢別に、少なくとも1人を出産する確率は以下の通りです。

▼年齢と凍結卵子数

10個20個30個40個
28歳80%94%
34歳75%91%95%
37歳53%75%87%92%
40歳30%52%65%76%
42歳21%36%49%60%
44歳7%15%21%26%
出典:Goldman R.H.et al: Hum Reprod 32;853-859,2017より作成

年齢があがるにつれて、出産に結びつく確率は下がっています。また、どの年齢でも卵子の個数と出産する確率が比例しないことも留意しておく必要があります。

【参考】ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ−日本産科婦人科学会

卵子凍結をする場合、何歳までにするのが良いか

卵子凍結する場合、何歳までにしたら良いのかを決める観点は、良い状態の卵子を保存したい場合と最終的なタイムリミットを考慮する場合の2つです。

それぞれ順番に解説します。

良い状態の卵子を保存したい場合

日本生殖医学会のガイドラインでは、未受精卵の採取は36歳未満が望ましいと定めています。海外の研究結果によると、36歳未満の卵子を凍結した場合は、20個あれば70%、25個では95%と、凍結した卵子の個数に応じて出産できる確率は高くなります。しかし、36歳以上の卵子では、20個で50%の確率に達しますが、それ以上は卵子の個数が増えても確率は横ばいの状況です。(Cobo A.etal:Hum Reprod 2018;33;2222

そのため、良い状態の卵子を保存したい場合は、36歳未満までに卵子凍結をすると良いでしょう。

【参考】「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関する指針」−日本生殖医学会

最終的なリミットを考慮して、卵子凍結を行う場合

自己卵子で出産できる期限が43歳といわれているため、遅くても43歳までに卵子凍結を行う必要があるといわれています。卵子凍結ができる上限年齢を40歳未満と定めている医療機関もあるため、確認が必要です。

期待できる結果とかかるコスト(時間と費用)のバランスを考え、日本生殖医学会のガイドラインでは、未受精卵の採取は40歳以上、凍結した卵子の使用は45歳以上の場合は推奨できないと定めています。しかし、人により事情は異なるため、期限はあくまでも目安です。明確な制限ではなく推奨であるため、医師とよく相談した上で検討していきましょう。

【参考】社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン−日本生殖医学会

早期卵巣不全(早期閉経)には注意が必要

約100人に1人の割合で、30代で閉経する早期卵巣不全(早期閉経)の症状になる場合もあります。閉経することは卵子の残りの数が0になることを意味しており、自身の子供をあきらめざるを得ない状況です。そのため、AMH検査というホルモン検査を行い、自身の閉経までのタイムリミットを図ってみる方法もあります。

AMH検査キット 卵子凍結

卵子凍結のリスク

卵子凍結時のリスク

卵子凍結時のリスクには、排卵誘発剤の副作用によるリスクと、採卵手術時のリスクがおもに考えられます。

  • 排卵誘発剤の副作用によるリスク

排卵誘発剤は、卵巣に刺激を与えるため、卵巣が腫れたりお腹に水が貯まる卵巣過剰刺激症候群の症状が現れるリスクがあります。卵巣過剰刺激症候群は、卵巣の過剰な腫大と女性ホルモンの分泌がみられます。さらに血液中の水分が血管の外に移行するため、血管内が脱水状態になり血栓症(脳梗塞、心筋梗塞など)を引き起こす場合もあるため、症状によっては入院による治療が必要です。

  1. 採卵手術時のリスク

採卵手術では、卵巣に針を刺すため、腹腔内に多少の出血がみられます。多くの場合、そのまま吸収されて消えるため問題は起きません。しかし、細菌などによる骨盤内感染を起こすことがまれにあり、採卵の数日後に強い腹痛や発熱といった症状が現れます。抗生物質の投与により治まります。

卵子凍結した後のリスク

年齢が高くなってからの妊娠・出産は、卵子凍結をした場合でも、通常の高齢出産と同じで、流産、難産になるリスクが引き起こされる確率が高まります。

妊娠中には、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などが発症しやすくなり、赤ちゃんの発育に問題が生じたり、早産となる危険性もあがります。また、お産が途中で止まってしまう、子宮がうまく収縮しない、産後の出血量が多くなるなどのリスクも高まるため、注意が必要です。

また、卵子凍結は、将来の妊娠・出産を約束するものでもありません。パートナーが決まっている場合に行う受精卵凍結(胚凍結)と、卵子凍結では赤ちゃんを得る可能性に大きな違いがあります。

卵子凍結時の年齢や精子の状態により、確率には幅がありますが、日本産婦人科学会が発表しているデータは以下の通りです。

採卵率89.9%〜96.9%
融解後の生存確率86.0%〜96.8%
受精率71%〜79%
着床率17%〜41%
1個あたりの出生率4.5%〜12.0%

現段階での医療技術では、凍結した卵子が妊娠成立までたどり着く確率は、4.5〜12.0%とあまり高いとはいえません。

【参考】ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ −日本産科婦人科学会

まとめ

将来、妊娠や出産を希望する女性にとって、卵子凍結は重要な選択肢となります。女性の社会進出が進み、妊娠適齢期に仕事から手を離せない女性が増えている現代社会では、妊娠や出産が後回しになることも少なくありません。しかし、年齢とともに妊娠・出産の確率が低下する現実に、多くの女性が悩みを抱えています。

卵子凍結は、そのような社会状況への有効な対策のひとつです。女性自身が理想とするライフプランを実現するために、何歳までに卵子凍結を考慮すべきかを理解し、適切な準備を進められるようになりましょう。


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卵巣年齢検査

一般社団法人 日本生殖医学会 「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関するガイドライン」

http://www.jsrm.or.jp/guideline-statem/guideline_2018_01.html

一般社団法人 日本生殖医学会 「社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン」

http://www.jsrm.or.jp/guideline-statem/guideline_2018_01.html

一般社団法人 日本生殖医学会 「生殖医療Q&A」

http://www.jsrm.or.jp/document/funinshou_qa_2020.pdf

公益社団法人 日本産科婦人科学会 「ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ」

https://www.jsog.or.jp/modules/committee/index.php?content_id=302

Goldman R.H.et al: Hum Reprod 32;853-859,2017

https://academic.oup.com/humrep/article/32/4/853/2968357?login=false

Cobo A.et al: Hum Reprod 2018;33;2222

https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(15)02111-1/full

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