卵子凍結とダウン症の関係を解説!

近年、女性の社会進出や晩婚化、核家族化による育児の変化など、ライフスタイルの多様化により、出産を希望しながらも妊娠のタイミングを遅らせるケースが増えています。しかし、一般的に35歳以上で初めて子どもを出産する高齢出産には、流産や難産、病気のリスクが高まることがわかっており、一定のリスクがあるのも確かです。

そんな中、妊娠しやすい期間を引き伸ばすことができる「卵子凍結」が注目されています。若い年齢のうちに卵子を採取し冷凍保存することで、妊娠率を高め、流産のリスクを抑える効果が期待できるからです。ただ、年齢とともに高まるダウン症のリスクについて心配を抱く人も少なくありません。

そこで、今回の記事では、卵子凍結とは何か、基本的な情報をご紹介した上で、ダウン症との関連性について詳しく解説します。

卵子凍結とダウン症
もくじ

卵子凍結とは

まず、卵子凍結とは何か、基本的なポイントを押さえておきましょう。

卵子凍結とは何か

卵子凍結とは、女性の卵子を卵巣から取り出し、液体窒素などで凍結保存する医療技術のことを指します。この方法を使うと、出産を遅らせたい人や、健康問題などで卵子の質が低下する可能性がある人も、将来的に出産できる機会を作ることができます。

卵子凍結の手順は、まず女性の卵巣に針を挿入し、卵子を採取します。採取された卵子は液体窒素で急速に冷凍され、-196度という低温で保存されます。

これまで、卵子凍結は受精後に卵子を凍結する「受精卵凍結」が主流でした。しかし、近年凍結技術が飛躍的に向上し、受精前の卵子を凍結する「卵子凍結(未受精卵凍結)」が急速に普及しています。

卵子凍結のメリット・デメリット

次の表の通り、卵子凍結には次のようなメリット・デメリットが挙げられます。

メリットデメリット
・高齢になってからの出産ができる
・病気の方も将来出産できる
・仕事や趣味など生活状況に合わせて出産ができる
・将来のパートナーとの妊娠の可能性を高めることができる
・身体的負担が大きい
・100%成功率は保証できない
・費用や通院時間などがかかる

卵子凍結のメリットは、高齢出産を可能にすること、また、子宮がんなどの病気により卵子の質が低下する恐れがある方の妊娠リスクを減らすこと、の2つです。また、ワーク・ライフ・バランスやパートナーの有無など、一人ひとりのライフスタイルに合わせて出産のタイミングを選べることも大きな魅力と言えます。

一方で、デメリットもいくつかあります。まず、卵子を採取する際の身体的負担は大きいと言われています。また、卵子凍結技術自体もまだ発展途上であり、必ずしも100%の成功率を保証できるものではありません。さらに、治療費や通院費用、時間などのコスト面もネックになります。

しかし、出産を望む多くの女性にとって、メリットとデメリットを比較すると、卵子凍結に大きな可能性があると考えるのではないでしょうか。特に、卵子凍結による妊娠率については一定程度の期待が持てるとされています。

そこで、次は卵子凍結の出産と妊娠率について詳しく見ていきましょう。

卵子凍結”後”の出産と妊娠率

最新のデータを参考に、卵子凍結から出産までの流れと妊娠率についてご説明します。

凍結卵子後の出産の流れ

卵子凍結からの出産の流れは、一般的に体外受精(IVF)を中心に次のステップで行われます。

【ステップ1】卵子の解凍

まず、凍結保存していた卵子を解凍します。卵子の解凍は、非常にデリケートな作業です。卵子が傷つかないように、細心の注意を払いながら専用装置で厳格な温度・時間管理の下、行います。

【ステップ2】体外受精(IVF)

精子と一緒に解凍した卵子を培養液に入れて受精させます。精子と卵子は自然に結合し、受

精卵が誕生します。

【ステップ3】培養

受精卵を数日間培養液の中で成長させます。受精卵が上手く成長しているか、綿密にチェックすることがポイントです。遺伝子異常のある受精卵を判断するため、遺伝子診断(PGT)を実施する場合もあります。

【ステップ4】子宮へ移植する

成長した受精卵を、母体の子宮へと移植します。細いカテーテルを使って、医師が受精卵を子宮内へと慎重に挿入していきます。受精卵が子宮壁に着床すれば、妊娠成功となります。

エコーの様子

卵子凍結妊娠率

妊娠率は、母体となる女性の年齢や健康状態などさまざまな要素によって変動します。

自然妊娠の場合、20代から30代前半までは妊娠率は約25〜30%とされ、35歳を超えると18%にまで下がります。40代になると妊娠率は5%にまで下がり、45歳を過ぎると1%と大幅に減少します。

一方で、卵子凍結とその後の体外受精による妊娠率は、保存した時点の卵子の質に大きく依存することがポイントです。厚生労働省「不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書」によると、2017年のデータでは、凍結融解胚(凍結卵子)の移植周期あたりの妊娠率は34.39%、IVF(体外受精)による妊娠率は23.11%、ICSI(顕微授精:精子を直接卵子に注入する技術)による妊娠率は20.29%と報告されています。

以上から、厚生労働省のデータでもわかるように、凍結卵子を用いた妊娠率は34.39%と報告されており、一般的なIVF(体外受精)の妊娠率23.11%よりも1割程度高いことがわかります。つまり、卵子凍結によって若いうちに質の高い卵子を保存し、体外受精を行うことで、一定の妊娠成功率を保つ可能性を示しているのです。

このように、卵子凍結は特に年齢とともに自然妊娠の可能性が低下する女性にとって、検討すべき選択肢の一つと言えます。また、卵子凍結を行うことで妊娠率を維持することができるので、将来的に子供を望む女性にとって重要な方法といえるでしょう。

参照:M.Sara Rosenthal.The Fertility Sourcebook.Third Edition

参照:野村総合研究所「不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書」

卵子凍結とダウン症の関係

卵子凍結では、ダウン症との関係を心配する声も聞かれます。実際のところはどうなのか、詳しく解説します。

ダウン症とは

ダウン症(ダウン症候群)は、遺伝子異常が原因の先天性症候群です。21番目の染色体が通常2つしかないはずなのに、3つあるために発症します。

ダウン症の子どもは、心臓、呼吸器、目・耳・鼻などの器官に合併症を引き起こす可能性があります。また、発達支援(療育)が必要となるケースもあります。出生頻度はデータにもよりますが、約1,000人に1人とされています。

【参考】15.超音波検査と染色体検査との関連(出生前診断について) – 日本産婦人科医会

ダウン症の確率を低く抑える卵子凍結

ダウン症は、特に母体の年齢に関連しての発生率が増加する傾向があります。なぜなら、年齢とともに卵子の染色体の異常のリスクが増えるためです。具体的には、ダウン症のリスクは、高齢出産に当たる35歳以上の女性で高まり、40歳以上になるとさらに発症リスクが上昇します。

自然妊娠であっても、母体が20歳で1000人に0.6人、30歳で1.5人、そして41歳では12人と高い確率に上昇します。

【参考】15.超音波検査と染色体検査との関連(出生前診断について) – 日本産婦人科医会

そこで、卵子凍結で妊娠すると、採取した時点の卵子の質を維持できるため、若い年齢の時の卵子を使用すればするほど、高齢出産でもダウン症のリスクを低く抑えることができます。

しかし、卵子凍結自体をはじめ、その後の妊娠プロセスで必要となる体外受精や顕微授精には、新生児における疾患リスクが高まるといわれています。特に、顕微授精を行うと卵子の一部が傷つけられる可能性があるため、新生児のリスクが増加するとの報告があります。

ただし、ダウン症の発症リスクにおいて、凍結卵子と非凍結卵子のどちらを使用するかによる違いはないとされています。米国生殖医療学会の共同ガイドライン(2013年)によると、凍結卵子を使った場合でも、受精率や妊娠率はもちろん、新生児が病気を持って生まれるリスクが高まるエビデンスはない、との結論が示されています。

このように、卵子凍結を利用すると高齢出産におけるダウン症リスクを抑制する可能性があると共に、新生児リスクの増加も起こらないと考えられます。そのため、将来、年齢が上がってから出産を希望している女性にとって、卵子凍結を活用すると高齢出産でもダウン症発症リスクを抑えることができるのです。

【参照】Mature oocyte cryopreservation_ a guideline – PubMed

まとめ

卵子凍結によって、女性は高齢出産でも年齢とともに上昇するダウン症のリスクを低く抑えることができます。若いうちに卵子を採取・保存しておくと、解凍・使用される年齢に関わらず、採取された時点の質で妊娠できるからです。したがって、卵子凍結を活用すれば、高齢出産を希望する女性でも、ダウン症のリスクを気にすることなく出産ができます。

ただし、卵子凍結をどのように選択するかは、一人ひとりの生活スタイルや健康状態、将来の出産計画等によって判断基準が変わってくるため、専門医と十分に相談を行うことが重要です。そして、ダウン症のリスクについても理解し、信頼できる情報に基づいた判断を行うことが大切となります。


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