卵子の数が少なくなったら?妊娠が難しくなることもあります。将来の妊娠計画を立てるうえで、卵子の在庫数がどれだけあるのかを知ることは重要です。そこで役立つのが「AMH検査」。この検査を通じて、卵子の在庫数を推測することができます。AMH値が高ければ妊娠の成功率が上がる可能性があり、低ければ早めの対策が必要かもしれません。
この記事では、AMH検査の仕組みやその結果を踏まえた対策について、わかりやすく解説します。将来の選択肢を増やしておくために、女性の未来をサポートするこの検査の詳細を見ていきましょう。
はじめに
近年、女性の社会進出によって、結婚や出産の年齢が上がっています。
このメリットとして、子育ての際の金銭的な余裕や精神的な余裕ができることがありますが、デメリットとして、加齢の影響で子を望んでも持つことができないことが挙げられます。
不妊の女性側の問題は、卵子の問題・卵管の問題、子宮の問題など様々な要因からなっています。特に、卵子の問題は、妊娠や出産の成功確率を高めることに大きく関わってきます。
米国CDCのデータによると、自己卵子を使用した場合には母胎の高齢化とともに出産率が顕著に減少していますが、若いドナーの卵子を使用した場合には母胎の高齢化にかかわらず高い出産率を維持しています。
将来の出産確率を高めておくためには、卵子の質と量の両方を維持することが大切です。卵子の質に関しては、女性自身の年齢とイコールです。そのため、この記事では、卵子の“量”に着目して、卵子の在庫数を知るための目安となるAMH(抗ミュラー管ホルモン)検査について説明します。
卵子の在庫数
卵子は胎児のときに一生分の卵胞がつくられ、誕生したあとに新たにつくられることはありません。
女性は生まれたときに約200万個の卵子を持っていますが、年をとるにつれてその数は減っていき、思春期には約20~30万個まで減少しているといわれています。更に月経の際に約1,000個の卵子が減少し、35歳頃には約2~3万個にまで減少しているといわれています。卵子の数が減ると、妊娠しやすさや妊娠の成功率が低下する可能性があります。特に、35歳を超えると妊娠の確率が低くなる傾向があります1)。
卵子の在庫数が多いことは、「妊活に挑める期間が長くとれること」や、「体外受精による不妊治療の際に卵巣から多くの卵子がとれること」を意味します。
そのため、将来の妊娠のチャンスが増えることにつながります。
AMH検査とは
卵子の在庫数を知るためには、AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査が一般的に使われます。AMH検査では、卵子が排卵に向かう過程で放出されるホルモンの量を測定します。このホルモンの量から、卵子の在庫数を推測することができます。検査は血液を採取して行い、その結果はAMH値として示されます。
AMH値は年齢が上がるとともに下がる傾向があります。
AMH値が高いと卵子の在庫数が多い可能性がありますが、必ずしも正確に卵子の数を示すわけではありません。値が高すぎたり低すぎたりする場合は、多膿疱性卵巣症候群をいう病気の可能性もあります。
特に卵子凍結を考える際には、自分のAMH値を知ることが重要です。これにより、将来の妊娠計画に合わせて最適なアプローチを検討することができます。
AMH値の持つ意味
AMHが高い
卵巣の予備能力が高く、多くの卵胞があること
AMH値が高いことは、卵巣が元気で、かつ、たくさんの卵子を持っていることを示します。そのため、将来、自然妊娠をしやすくなったり、不妊治療に挑戦できる回数が増えたり、役立つことがあるかもしれません。
長く妊娠しやすい状態が続く可能性があること
AMH値が高い場合、妊娠しやすい状態が長く続くかもしれません。卵巣の予備能力が高いため、年齢による卵巣の働きの低下が遅れ、妊娠のチャンスが長く続くかもしれません。
また、卵胞の数も多く残っていることが想定されるため、閉経までの期間も長いことが推測されます。
ただし、AMH値が高くても、必ずしも妊娠が確実となるわけではありません。他の要素や個人の状況も妊娠に影響を与える可能性があります。AMH値はあくまで卵子の在庫数を推測するための目安であるため、医師と相談してそのほかの要素も加味して計画を立てることが重要です。
AMHが低い
卵巣の予備能力が低下しており、卵胞が少ないこと
AMH値が低いと、卵巣内の卵胞の在庫数が制限されている可能性があります。つまり、卵巣の働きが弱くなっていることを示します。また、AMH値が低いことは、卵巣内の卵胞の在庫数が少ない可能性を意味します。卵子の在庫数の制約により、不妊治療の選択肢も狭まる傾向にあり、結果として妊娠の成功率が低くなる可能性があります。
妊娠しやすい期間が短くなること
AMH値が低いと、年齢による卵巣の働きの低下が早まることがあります。また、卵胞の在庫数が1,000個近くに減少すると閉経するといわれています。これにより、妊娠のチャンスが少なくなる可能性があります。
AMH値が低くくても、卵子の質が低いわけではないため不妊治療などの選択ができますが、AMH値が高い場合とは不妊治療に挑戦できる回数が異なることに注意が必要です。専門医と相談し、状況を総合的に評価することが重要です。
AMH値を維持するために必要なこと
AMH値を高めることはできないと言われていますが、栄養の不足によってAMH値が著しく低下している場合、栄養を補うことでその人の年齢相当のAMH値に戻った例もあります3)。
AMH値だけで妊娠率が決まるわけではなく、総合的に判断する必要がありますが、AMH値は重要な指標です。
そのため、今回はAMH値に注目して、AMH値を維持するために必要なことをご紹介します。AMH値は卵子の在庫数や予備能力を示すものであり、生まれつきの体の状態や普段の生活習慣によって決まります。そのため、普段の生活習慣を改善してAMH値を高く保つ努力を行うことが重要なのです。
以下に、AMH値を下げないために個人ができるポイントをご紹介します。
(1)たばこやアルコールの制限
たばこや多量のアルコールは、卵子の在庫数や卵巣の機能に悪影響を及ぼすことがあります。できるだけ禁煙し、アルコール摂取も適度にすることが良いと考えられます。
(2)バランスのとれた食事
食事の際の栄養のバランスも考慮しましょう。健康的な食事を摂ることが重要です。特に、抗酸化物質やビタミン、ミネラル、オメガ-3脂肪酸などの栄養素は、卵子の状態に影響するといわれています。
(3)適切な体重の維持
体重や体脂肪が過度に増えると、ホルモンのバランスや卵巣の機能に影響を与えることがあります。適度な運動や食事管理を通じて、健康的な体重を維持しましょう。
(4)婦人科の受診
心配や疑問がある場合は、専門医と相談しましょう。専門医のアドバイスを受けることで、適切な対策やアドバイスを得ることができます。
大事なことは、健康的な生活や良い状態を保つことが、AMH値を維持し、卵巣の健康と卵子の予備能力にプラスの影響を与える可能性があるということです。
AMH値が低い場合の卵子凍結の活用
卵子凍結は、若く健康な卵子を保存しておくことで将来の妊娠の可能性を確保する方法の一つです。特にAMH値が低い女性にとっては、その価値が高まります。なぜなら、AMH値が低いことは、卵子の在庫数が少なくなっていることを意味するからです。
また、卵子の質も年齢と共に減少します。したがって、AMH値が低い女性は、可能な限り早く卵子を凍結することを検討することでより質の良い卵子を保存しておくことが可能です。これにより、将来的な生殖能力を確保できるのです。
まとめ
将来の妊娠・出産の計画には、卵子の在庫数を知ることが重要です。AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査は、この在庫数を推測するための一般的な方法で、血液検査で得られるAMH値によって示されます。AMH値が高いと卵子の在庫数が多い可能性があり、低いと卵巣の予備能力が低下していることを示します。AMH値を維持するためには、禁煙や適度なアルコール摂取、バランスの取れた食事、適切な体重管理、そして専門医の受診が重要です。特にAMH値が低い場合は、早めの卵子凍結も有効な選択肢となります。AMH検査を活用して、自分自身の将来の妊娠計画をしっかりと考えることが大切です。
1)山梨大学医学部 産婦人科:不妊治療について
不妊治療について – 山梨大学医学部産婦人科 (yamanashi-obgy.org)
2)浅田 義正(2010年).ARTとAMH J.Mamm.Ova Res. Vol27,208-215,2010
_pdf (jst.go.jp)
3)大宮レディスクリニック:妊娠体質づくり
https://www.omiya-lc.com/antiaging/story.html/、2023/5/22閲覧
その他参考文献
4)日本生殖医学会:
生殖医療 Q&A(2020年)生殖医療Q&A (jsrm.or.jp)
5)一般社団法人 AMH普及協会:
あなたにお話ししたいAMH検査のことAMHとは(アンチ・ミューラリアン・ホルモン)