阪神淡路大震災をきっかけに医師を志し、現在は産婦人科医として活躍されている中谷真紀子先生にインタビューを行いました。女性医師として、患者さん一人ひとりに寄り添いながら、真摯に婦人科治療にあたられています。
手稲渓仁会病院
ゲノム医療センター部長・産婦人科 副部長 中谷真紀子先生
経歴
・名寄市立総合病院
・北海道大学病院
・釧路赤十字病院
・王子総合病院
・北海道がんセンター
・浅田レディースクリニック
所属学会・資格
・日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
・日本産科婦人科学会 指導医
・日本生殖医学会 生殖医療専門医
・日本生殖医学会 生殖医療指導医
・日本産科婦人科内視鏡学会 技術認定医
・日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
・認定がん・生殖医療ナビゲーター
・がん治療に携わる医師を対象とした緩和ケアに関する研修修了
先生が医師を目指されたきっかけ
私は、出身が兵庫県の淡路島で、中学3年生の時に阪神淡路大震災あり、それで最初は救急現場に行こうと思って医者を志したんですよね。
そして医者を目指している間に、脳死からの臓器移植が大阪大学であって臓器移植にも興味をもった中で、無事医学部に入ました。
学生の頃に将来進む科を考えていく中で、半分素人みたいな考えなのですが、救急も臓器移植も、あんまりゆっくり患者さんとお話できないなという印象があり。患者さんとゆっくりお話できて、なおかつ自分らしい医療ができるところって考えて産婦人科医になりました。
子宮頸がんワクチンについて
やっぱり一般的に癌って高齢者の病気ってイメージが強いと思うんですが、子宮頸がんの場合は、患者さんの3割ぐらいが、30代、40代の女性です。そして、初期症状が出ないんですよね。
なので、最近ちょっとおりもの多いかなとか、変な出血あるなっていう時に受診された時には、進行してる頸がんがみつかる、ということもあります。
そして「30代なのに子宮を取らないと癌を治せない」とか、「まだ子供が小さいのに子供を残してこの世を去らなきゃいけない」っていうような方がすごく多くいらっしゃいます。
社会に対しての損失があまりにも大きいですし、このような経験を20代、30代でされるっていうのがもったいないと感じます。
ワクチンを打つと、その発症を抑えられる期待があります。ワクチンを打たない選択肢ももちろんありなんですけど、打たないのであれば、ちゃんとがん検診にこまめに(1年に1回)行くとか、しっかりとした知識を持って選んでもらいたいなと思います。
ワクチンを打ったら検診に行かなくていいってことではないんですけど、唯一のがんの予防になるのがワクチンで、その7、8割が予防できるんだったら、打っていただきたいなとは思います。
子宮頸がんワクチンは7、8割も子宮頸がんを防げる?
頸がんの発症そのものが時間が数年単位でかかるものなので、ワクチンの効果をみるためにはもともと時間が必要ではありますが、世界各国で始まったワクチンの効果が、すでにみられている、つまり、子宮頸がんの前がん病変が減ってきている、または頸がん自体が減ってきているという報告が各国から続々と出ています。
ただ、日本はワクチンを接種していない空白の時代があるので、あいかわらず頸がんが増え続けている、という報告がでています。
手稲渓仁会病院の得意とされてる治療は?
手稲渓仁会病院は産科、婦人科腫瘍、良性手術、不妊治療全てをみている施設ですが、比較的腹腔鏡の良性手術に力を入れています。
体外受精や一般不妊(タイミング法、人工授精)、子宮内膜症治療などを複合的に治療することができます。
あとは癌治療もやってるので、幅広く全体的な治療、婦人科の治療ができる病院なのかなとは思います。
これから妊活を行う患者さんへ
そうですね。少しでも不安があれば、とりあえずまずは病院に来ていただいたらいいなって思います。20代30代でも、 元々不妊症の要素を持っていて、妊娠するのにすごく時間がかかる方っていう方もいらっしゃるし。
40代でいきなりいらっしゃる方もいらっしゃるんですけど、うまく妊娠・出産にたどり着けるかどうかは非常に個人差が大きいので、とりあえずまず来て、ご相談いただいた方がいいのかなと思います。
受診が必要かどうかはなかなか難しいところですが、ポイントとしては、
① 生理が若い頃からひどかった
② 生理不順がある
③ 1年間タイミングとって妊娠しない
④ 30代後半以降で結婚した
とか、そういったポイントに当てはまる場合は、私は早く受診した方がいいんだなと自分で意識しておいてほしいです。
ただ、上記のような症状も全くなく30代で卵巣機能が低下してしまう、場合によっては閉経しちゃうっていう方もごくまれにいらっしゃるので、もし不安だったら、1回病院に行ってみるのが良いと思います。
卵子凍結について
まず、卵を凍結したからと言って妊娠が確保されるわけではないっていうのは、頭の片隅には置いといてもらいです。
私たちの病院でも需要はあって、一ヶ月に1人か2人ぐらいずつご相談には見えていて、必要に応じて卵子凍結の方は卵をお預かりしています。ただ、どの年齢で何個あれば将来の妊娠が確保できるというものはないのと、不妊の原因が自分だけとは限らない(近年男性因子も非常に増えてきています)ので、必ず将来のビジョンっていうのは持ってもらいたいなと思います。
20代~30代で卵子凍結をした後、結局40歳になって出産する場合、卵は若いかもしれないけど、結局妊娠経過や出産時のリスクは年を重ねると高くなります。たとえば、切迫早産とか、妊娠高血圧症候群(昔でいうと妊娠中毒症)とか、妊娠糖尿病のような合併症はふえてしまいます。仕事の実績を積んだ分だけ休む時の損失も大きくなって、逆に休みづらくなってくる、という側面もあるかもしれません。
ですので、これから妊娠しようと思っている方や、妊娠中の方で、無理されているな、と感じる方には「自分がやりたいことや、休みたいタイミング、子供を望むタイミングは、空気を読まずに明確に言った方がいいよ」って外来ではお声かけしています。
私たちも妊活に協力はしたいけれども、卵子凍結に関しては、不確定な要素もあるので、あんまり過信はしないでもらいたいです。北海道は全部自費でやっていただいてるので、患者さんのご負担も多く、東京の卵子凍結への助成金がすごい羨ましい。
北海道でも卵子凍結をされる方は多い?
北海道は全体的に給与が低いので、全道的には広まっていないようですが、札幌市内は道内の他の地域に比べると結構多いかと思います。
30代後半の方が多いですね。20代の方もこの間1人だけいらっしゃって、20代だったらもうちょっと人生設計を考えてもいいんじゃないと、情報提供をした上でもう一度考えていただきました。卵は確かに若い方が将来の妊娠の確率はあがるかもしれませんが、その分、長期的な保管料もかかってくるのと、将来設計が大きく変わる可能性があるので、卵子凍結が必要ないこともあります。そのこともふまえて最終的にはその20代の方も、卵子凍結をお受けしました。やはり、全体的には30代の方が多いですね。
▼ご協力院